1970年代初期のチック・コリアは、ソロピアノを録音。続く『リターン・トゥ・フォーエヴァー』は電気楽器を導入し、ブラジル人ミュージシャンを加えて、ジャズの枠を大きく飛び越えた「桃源郷音楽」。これらと同時期の72年にリリースされた本盤は、この2つの音楽を融合したような形である。
コンテンポラリーなヴァイブラフォン奏者のゲイリー・バートンと、アコースティックピアノでデュオを行った。「リターン・トゥ・フォーエヴァー」でのハッピー&トロピカルな要素を、アコースティックな対話で、しかもジャズインタープレイの醍醐味をも聴かせる。ベースもドラムスもいない環境でリズミカルな演奏をするには、両者に音楽的、リズム的センスと技術が不可欠である。
ラテンフレーバーあふれるコリアのオリジナル「セノョール・マウス」でのタイトなリズム感は、まことにスリリング。ピアノとヴァイブラフォンだけの表現力に手ごたえを感じたのだろう、多彩なコリアのライフワークの1つとなった。(高木宏真)

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